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『吸血鬼のおしごと⑦ The Style of Mortals』感想

「今までありがとう。
 舞くんと、君と過ごした生活は――とても、楽しいものだった」


吸血鬼のおしごと〈7〉The Style of Mortals (電撃文庫)吸血鬼のおしごと〈7〉The Style of Mortals (電撃文庫)
(2004/09)
鈴木 鈴

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(※全力でネタバレしまくっております。ご注意を)
先述の通り、六巻の帯の煽り文は衝撃的でしたが、この七巻のそれは、別の意味で衝撃的でした。
だって、

もう、疲れた。人間でいるのも、人間として暮らすのも。

ですよ!?
六巻→七巻の合わせ技で、なんだこのとんでもない落差は、と。
いや、必然ではあるんですけどね。

六巻のラストで、舞の消滅によって生まれて初めて泣いた亮史。
ついにずっと望んでいた人間としての心を手に入れたのですが、初めて覚えたそれは、哀しみと絶望でした。
なので、「こんな温もりなら、いらなかった」と、直後のモノローグで呟いています。
しかし、物語の基本構造から言っても、そこからどう立ち直るかが描かれると思うじゃないですか?

もちろん、とても明るいハッピーエンドになるとまでは思っていませんでした。
切なく、もの悲しい中にも、いくらかの救いはある、そういう終わり方になるだろう、と。

……甘かったですね。
全く予想の斜め上なんだか下なんだかわからない方向に、とにかく突き抜けました。

私にとっては、予想は裏切り期待には応える理想的なもので、
読み終わるとともに深い感動を覚えましたが、とても一般的に受け入れられるものではないことも明らかでした。
「とんでもない投げっぱなし」「ひどすぎる」と仰る方がいることも、そのお気持ちもわかります。
だけど、それでも私は、間違いなく傑作だと思うのです。


舞を失った亮史の胸に宿るものは、ただひとつ。彼女を殺した、真田への復讐です。
そのために、亮史は上弦と共闘することにし、帯の煽り文はそのときの一節です。
亮史に執着する上弦の望みに応えると言い、彼女を懐柔――ぶっちゃけ「コマし」ます。
操縦法を心得ているヤンデレほど扱いやすいものはありません。
そして、客観的に見れば、これほど可愛いものもありません。

この巻の上弦は、本当に健気で一途で、とても可愛いです。メチャクチャ萌えました。
ことあるごとに亮史の歓心を買おうと媚びまくるいじらしさが堪りません。
そんな彼女に対して、亮史は極悪非道のスケコマ師ぶりを発揮します。
まるで貢がせるだけ貢がせ、骨までしゃぶり、ソープに沈めて捨てるような、
しかしそれより遥かにひどい鬼畜行為を行います。
本当にライトノベルの主人公なんでしょうか、この人……(笑)。

少なくとも、万が一にも上弦エンドということはありえません。
殺す、というのはあるだろうと思っていました。

しかしまさか、発狂させるとは……!

それも、そこに至る経緯、発狂の仕方がまたエゲツナイ。
使い魔であるツルを目の前で惨殺し、絶望して死を請う上弦に、お前の命なんて別にどうでもいい、と。
さらに、発狂した上弦は、玄翁を魎月だと認識するように。
それでも敬愛する主人のためならばと、憎い男の代わりを演じ続けることを決意する玄翁……。

私は最高にエキサイトしたんですが、これ、本当に中高生に読ませていいんですかね?
なんだか、未来あるいたいけな少年が変な性癖に目覚めそうなんですけど……(笑)。

この部分、亮史と上弦、両者の心情がかなり詳細に説明されているのですが、それがまた。
上弦の愛情は盲目的で純粋ですが、同時にとても身勝手で、エゴに塗れてもいます。
でも、強烈な愛情には極普通に伴う程度で、そこまで罪深いものとも言えず、真摯な部分もかなりあるんです。

それを亮史は、「自分のことしか考えていない女」と断じています。
そして凶行に及んだ理由は、そんな彼女に「ムカついたから。なんとなく」と。
彼の視点に立つと、確かにそう思われても仕方ない部分、事実そうである部分も多々あるのですが、しかし。
あんまりにも、あんまりですよね。なんという容赦のなさでしょう! もう堪りませんね!
そりゃあ「ドS作家」とか「黒作家」とか言われるってもんですよ(笑)。


さて、いわゆる「ラスボス」に位置する真田ですが、キャラクター的にはむしろ「主人公」しています。
主人公である亮史の方がよっぽどラスボスっぽいです。
途中、「どうすれば月島亮史に勝てるのか?」という答えを求めて試行錯誤し、
「要は覚悟だ、意思の強さだ!」という結論を見つける真田は、とても熱血主人公していました。
また、そんな真田を歯牙にもかけず蹂躙する亮史は、完璧にラスボスでした。

そして、真田を殺し、舞の仇を討った亮史は――自殺します
もうこれ以上、生きる意味を見出せなくなったのです。
最初は生きるために人間になろうとして、人間の心に興味を持ち、それを欲して。
ついに手に入れてみれば、感じたのは悲しみと絶望、残ったのは喪失の虚無感だけ。
人間の心も、それを求めた自身も全否定して、亮史は死を選びます。

「お前のために命を投げ出した舞はどうなるんだよ!?」と言いたくなる展開ですが、
それについても「こんな自分を好きになり、こんな自分のために命を投げ出した彼女がかわいそうだ」と
亮史の心情がきっちり解答されているというのがまた、どこまでも救いが無く……。

生まれて初めて太陽を見ながら、その光に焼かれて溶け消えていく亮史の、

薄く開けたその目に最期に映ったものは、
燦然とした輝きを放ちながら昇りゆく、この上もなく美しい朝日だった。


という最期の美しさが虚無感に拍車をかけます。

ファンタジック・コメディと銘打たれ、のんべんだらりとした吸血鬼を書く、
として始まった作品の結末がこれか、というと超展開のように感じられるかもしれませんが、
しかし、『吸血鬼のおしごと』という作品は、根っこのところで、ずっと「こう」だったと思うのです。

容赦なく現実を直視して、逃げない。
作品を透徹するシビアな人間観・人生観とニヒリズムは終始、揺らぎませんでした。
ゆえに、本作が安易な人間賛歌、ヒューマニズムの全否定に至ったことは、必然であると言えます。

また、確かに衝撃的で、意外すぎる結末ではありましたが、
それはあくまで一般的な物語のお約束から類推した場合であって、ただ純粋にこの作品だけを見れば、
間違いなく「これしかない」という必然の展開だったと思います。

そういえば、現在では『魔法少女まどか☆マギカ』で有名な虚淵玄先生は以前、ハッピーエンドが書けなくなっていたそうです。
人生の最後は常に死であり、つまりバッドエンドであり、ハッピーエンドなんて信じられない、と。

それは、間違いなく一面の事実です。だけど、普通の物語は、(悪い言い方をすれば)そこから逃げます。
人間を肯定し、生きることを肯定し、ハッピーエンドで終わります。その逆は、喜ばれないからです。
救いなんて無いという現実を直視できる人は、そう多くないでしょう。
だから、人間を否定し、生きることを否定したこの作品が不評を受けるのは、
当たり前といえば当たり前すぎることです。

でも私は、どこまでも現実を直視して逃げないことを貫いて
ひとつの作品をきっちりと書ききり、完結させたことは、もっと称賛を受けてしかるべきだと思うのです。
人間の否定、生きることの否定を少年向け作品でやらかした、やってのけたという暴挙にして壮挙という点でも。


「それでも、いくらなんでも雪村舞が報われないのではないか」というのは、私も考えました。
亮史を守るために死んだ彼女のためにも、彼は生きるべきではなかったのか? と。

しかし、むしろ「逆」ではないでしょうか。
雪村舞のためにも、月島亮史は死ぬべきだったのです。

愛する者が、自分のために死んだ時、相手のためにも生きるべきなのは、女性だけだと思うんです。
男は、死ななければなりません。愛しい人が、自分のために死んだなら。
確かに彼女を愛していたことの証明に、死ななければならないと思うのです。
「舞がいない世界で生きていく意味はない」という亮史の、これこそ正に究極の愛ではないでしょうか?

つまり、形こそ望んだものではなくても、雪村舞の想いは、これ以上なく報われているのです。

余談ですが、本作は見方を変えれば「純真な少女の愛、人間の心の温もりが、千年を生きた化け物を滅ぼした」
というステロタイプな物語として要約することも出来、そう考えると完全なハッピーエンドであるのもおもしろいところです。


もっとも、素直に本作の救いを見出すならば、それは生き残ったレレナとクイナでしょう。
(ツキもですが……今まで全く触れてこなかったこともあり、割愛します)

このうち、レレナについては続編『吸血鬼のひめごと』にて後日談が描かれています。
それとは別に、『吸血鬼のおしごと』内での彼女の結末はというと……。
これまた非常に、現実的なんですよね。拍子抜けするほどあっさりと、受け入れているんです。
奇妙な同居生活の終わりも、好ましい同居人たちの死も。
今までの日常の終わりを悟り、新しい日常へと覚束ない足取りで歩き出しています。

初めて読んだ時はその前の亮史の最期が美しすぎたので、
淡々と物語を仕舞った事務的なエピローグ、ぐらいに考えていました。
しかし、今改めて読み返してみると、素晴らしくいいエピローグだと思いました。
自暴自棄から立ち直ったように見えて、やはり投げ槍な雰囲気を纏ったまま去っていくクイナと合わせて。
現実的で、ニヒリズムに貫かれた物語の結末に、これ以上なくふさわしいと思うんです。

テーマ : 小説
ジャンル : アダルト

『吸血鬼のおしごと⑥ The Style of Association』感想

吸血鬼のおしごと〈6〉The Style of Association (電撃文庫 (0861))吸血鬼のおしごと〈6〉The Style of Association (電撃文庫 (0861))
(2003/11)
鈴木 鈴

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大好きだよ、月島さん――。

発売日に店頭で見たとき、この帯の煽り文を見て、凄く嫌な予感がしました……。
私でなくてもそう思うでしょうし、切実に期待したミスリードでもありませんでした。
つまり、ネタバレもいいところなんですが――それでも、「これしかないよなぁ……」と納得しています。

攫われたレレナを取り戻すため、『組織』の本部に突入する亮史たち。
もはやほのぼのコメディの面影は皆無、ひたすら切迫したシリアスな戦闘が続きます。
ですが、そんな盛り上がるクライマックスの展開さえただの容器に過ぎないほどに、
この巻は徹底して、「雪村舞の最後」を描いた巻です。……いえ、別に私にとっては、とうことでなく。(多分)

「あからさまにスポットライトが当たるのは死亡フラグ」とは言いますが、
冒頭からもう大活躍で、亮史ともたびたびイイ雰囲気になり、持ち上げるだけ持ち上げて、という。
ある意味ではお約束的な手法ではあるんですが、とても丁寧に扱われていて、
この巻を持って本作のヒロインは彼女ただ一人に決定したと言えるでしょう。

苦手な人はきっと眼を背けたくなるほどにヤンデレだった舞ですが、
正に「一周回って」といった感じで、この巻では完全に聖女と化しています。
いや、「完全に」ではないですね。嫉妬でモノスゴイ顔になってるシーンとかありますし(笑)。

そして舞の消滅へと至る一連の展開・心理描写は憎いほど素晴らしく、大好きで、何度も読み返しました。
自分の死を覚悟して、彼女が抱きしめた想い、

雪村舞は、月島亮史のことが、大好きだということ。

という一文は、これまで彼女の汚い部分、醜い部分もちゃんと描写してきたからこそ。
とてもとても綺麗なものとして、すとんと胸に落ちてきます。


一方で、彼女と対を成すもう一人のヒロイン・上弦は、清々しいほどヤンデレ一直線です。
亮史と決別した現実に目を背けて、彼との逢瀬に胸をときめかせ、
恋する少女のように身嗜みを気にしているところとか、本当に病んでます(笑)。

前巻までは同じヤンデレだった二人が、どうしてこうも違ってしまったのか。
それは前回の記事で、「殺してでも欲しい」か「君のためなら死ねる」であってこそ愛、と書きましたが、
上弦は「殺してでも欲しい」で、舞は「君のためなら死ねる」だったからでしょうね。

ちなみに、五巻のあとがきで「もう四巻以上のエロはない」と書かれていましたが、
確かに四巻ほどではないかもしれませんが、上弦様は今回も思いっきりエロいです!
衆人環視の中で亮史の唇を貪りながら「卑猥な感覚」を胸に覚え、
「唾液を悦んで嚥下」したりだの、「腰を魎月に押しつけ」たりだの、ヤリたい放題。
ドロドロした女の情念とか、非常すぎる合理性や身も蓋も無いニヒリズムもですが、
単純に性的な意味でも、この作品、多感な中高生に読ませていいんですかね?(笑)


さて、いよいよ次で最終巻です。
五巻の終盤でその兆候はありましたが、舞の死によってついに「人間的な感情」が芽生えた月島亮史。
人間の心に目覚めた化け物というモチーフ、そしてそこから生まれるテーゼは古今、
盛んに用いられてきた王道ともいえるものです。そこに、どんな独自性を持たせるか?
『吸血鬼のおしごと』が出した答えは、ほとんど空前絶後だと思います。

ファンタジック・コメディという初期のコンセプトからは、随分と遠いところに来てしまった本作。
その衝撃の結末とは!? 

……しかし見方によっては、この六巻で物語としては完結しており、七巻は長いエピローグに過ぎないとも言えます。
ひたすら「現実的に」、安易なご都合主義へと「逃げない」ことを貫いた本作の行き着く先は、
雪村舞というキャラクターが物語から失われた時点で、すでに定まっていたに違いないからです。

テーマ : 小説
ジャンル : アダルト

『吸血鬼のおしごと⑤ The Style of Master』感想

――おまえのこころを、ぼくにくれ

吸血鬼のおしごと〈5〉The Style of Master (電撃文庫)吸血鬼のおしごと〈5〉The Style of Master (電撃文庫)
(2003/06)
鈴木 鈴

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昨日のレビューでは全く触れませんでしたが、実は四巻、かなりピンチな感じで終わっています。
主人公・月島亮史は吸血鬼の弱点である銀製の武器を携えた『組織』の吸血鬼たちに苦戦し、
嫉妬の炎を燃やして襲い来る上弦によって、レレナは絶望的な逃避行を強いられることに。

なんとか学校に逃げ込んだ亮史ですが多勢に無勢、絶体絶命の窮地です。
まあ主人公ですから、こんなところで死にはしないでしょう。
果たしてどんなスリリングな展開で逆境を跳ね返すのか――という話に普通はなるところですが、
ダークファンタジーとして覚醒した『吸血鬼のおしごと』は斜め上を行きます。

残虐な吸血鬼『魎月』であった頃に立ち返った亮史のショータイムが繰り広げられるのです。
もちろん、ショーの演目は「ジェノサイド」。魎月様無双の始まり始まりです。

しかし、「俺TUEEEEE!!」がしたいだけの、いわゆる最強主人公もの、というわけではありません。
敵役である『組織』の構成員たちは、『主人』である生まれながらの吸血鬼によって、
理不尽に『従者』にされ、人間に戻ることを何よりも望んでいる可哀想な人たちなのです。
彼らにとっては、恨み募る『主人』への正当な復讐であり、悲願を遂げるための決死の努力。
そんな同情すべき人たちが、恐ろしい化物に立ち返った亮史によって、願い叶わず惨殺されていく――。
そういう悲劇として楽しむべく書かれている向きが多分にあります。

なので、主人公の亮史がもう完全に悪役、それもラスボスのオーラです。
おまけに、展開上の役柄だけでなく、やってること自体が完璧に悪役のそれ。
勧善懲悪ものの悪役でも、ここまで外道なのはそういないだろうという外道っぷりです。
豊富な戦闘経験によって多勢を翻弄し、心理を読みきって混乱に陥れ、まともな抵抗すらろくにさせません。
『主人』としての能力で敵を操り、不用意に近づいた仲間を殺させるとか、本当に容赦ないです。
人間に戻ったら一緒になろう、と約束した(死亡フラグを立てた)カップルに至っては、
捕らえた女の方を操り、その手で愛しい男を殺させるとう鬼畜行為まで。

中でも凄まじいのは、上弦の『眷属』である玄翁との一騎打ち時です。
『眷属』とは、『主人』に強い忠誠心を持った『従者』(あるいは『使い魔』)。
特に玄翁は、夜伽を命じられたりしているわけで、自分が亮史の代価品と知りつつの複雑な感情があるでしょう。
そんな彼を動揺させて戦いを有利に運ぶために行った挑発が、以下です。


(上弦とそういう仲になったもの同士いろいろと話し合おうじゃないか、と言って)

「あいつの性格とか、口癖とか、血の嗜好とか」
「お前と語る舌など――」

寝床での具合とか。
 中古とはいえ、なかなかよかったろう?
 なにを隠そう仕込んだのはこの僕――」



ひどすぎです。

本当に主人公、それもライトノベルのかと。
せっかくいい勝負をしていたのに、これに激昂した玄翁さんはたちまち不利に。
NTR属性がなかったのが致命的でしたね……!

さらに。
自分のことを肉バイブ程度にしか思っていないことは確実の上弦を、
それでも健気に想っている玄翁は、亮史に問います。なぜ上弦の求愛を断ったのかと。
それに応えて曰く、

「ふむ、そうだな、強いて言うなら――」
「しつこい女は、嫌いなんだよ」


うわぁ……。
もう月島さん、もとい魎月様、素敵すぎます。
ここまでダークヒーローに徹しつつ、しかも気取ったところを感じさせない主人公は中々いないでしょう。
テンプレ的なタイプのラノベ主人公にはうんざり、という方には高確率で非常な良主人公だと思います。
そういう方は、ぜひご一読を!


そんな主人公によって凄惨なスプラッタが展開され、バイオレンスアクションの趣が強い今回ですが、
ドロドロしているのは返り血だけではありません。もはや恒例の、ヒロインたちの情念も、です。

冒頭からダブルヤンデレヒロイン、舞と上弦の直接対決ですよ。
己の優越を誇示する女同士の粘着質な鞘当が行われた末、
挙句の果てに「私なんてこんなに情熱的に求められたことあるんだぜ!」と
過去のハードプレイ自慢とかしちゃい出す上弦様、玄翁さんマジ報われない……。
どこの昼ドラですか、これ!(笑)


続いては、自分の男に手を出した薄汚い泥棒猫と認識しているレレナを、ついに捕まえた上弦。
人質にするから生かしておいてやるけど、半吸血鬼だから簡単には死なないしと、盛大に気晴らし暴行を加えます。
それが、今でも読者の間で語り草になっている
ブロック塀で顔面擦り下ろし刑。

そして、

「かわいい顔が台無しだ! お前、まるで豚みたいだぞ!?」

純真無垢なヒロインが可愛い顔を豚みたいにグチャグチャにされるライトノベルェ……。

ちなみに、鈴木鈴先生はこのシーンについてあとがきで
「俺はサドじゃないぞ!? 絶対にサドじゃないぞ!?」(意訳)と述べられており、
これにより目出度く「黒作家」や「ドS作家」などといった称号を獲得されたのでした(笑)。


さらに最後を飾るのは、私イチオシの雪村舞です。
この二巻で亮史にふさわしい女になりたい、ならなければいけないと痛感した彼女の、
深すぎ、重すぎ、一途すぎな恋心がヤンデレ可愛く突っ走りします。

ちょうど亮史が敵にトドメを刺そうとしているところに遭遇する舞。
亮史の化け物としての本性を目の当たりにしても、彼女の想いは小揺るぎもしません。
むしろ、自身の本気を証明するために、その手で人を殺そうとさえして――

「あたしは、月島さんと一緒がいい。
 月島さんが汚れてるならあたしも汚れたい。
 月島さんが化け物ならあたしも化け物になりたい。
 ――月島さんが人を殺すのなら、あたしだって、殺すよ。
 だって、ずっと、そばにいたいから、だから――」


萌え死ぬ!

……いや、私は大好物ですけど、冷静に考えると、いいんですかね、これ?
ライトノベルで、つまりは十代の少年少女に対して、この子をヒロインと言っちゃって(笑)。
(ヒロインということは、当然肯定的に書かれているわけで……)

まあ、一般的な常識や倫理はともかく、個人的には、これこそが愛! これでこそ愛ですよ!
「殺してでも欲しい」か「君のためなら死ねる」の少なくともどちらかではなければ、愛というには軽すぎます。
そんなわけで彼女、雪村舞は、未だに私の中で忘れられないベストヒロインの一人です。

……あと、上弦も(笑)。
おっと、浮気性とか言わないで下さいね!? そもそも私は一夫多妻制支持者です!(キリッ



それと、これも今まで全く言及してきませんでしたが『吸血鬼のおしごと』、
というか鈴木鈴先生の特徴として、場面転換を多用される、ということが挙げられます。

その手法が、この巻では多大な効果を上げています。
登場人物の視点が絶妙な引きを残しつつ目まぐるしく変わり、
最初から最後まで非常にスリリングな展開の連続で、息もつかせません。
一秒でも早く次のページをめくりたくなるスリル、という点ではこの五巻がシリーズ中最高だと思います。



以上、ダークファンタジー・バイオレンスアクション・ヤンデレラブストーリーな『吸血鬼のおしごと』第五巻の感想でした。

テーマ : 小説
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『吸血鬼のおしごと④ The Style of Mistress』感想

吸血鬼のおしごと〈4〉The Style of Mistress (電撃文庫)吸血鬼のおしごと〈4〉The Style of Mistress (電撃文庫)
(2003/02)
鈴木 鈴

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全七巻のちょうど真ん中にあたるこの巻で、シリーズはついに転換点を迎えます。
ファンタジック・コメディという皮を脱ぎ捨て、いよいよダークファンタジーとしての本性を剥き出しにするのです。
同時に、より「吸血鬼ものらしい」吸血鬼ものとなっていきます。
すなわち、「吸血鬼もの」の醍醐味といえる耽美さを帯びてくるのです――

というかぶっちゃけ、やたらとエロくなっています(笑)。

次の五巻のあとがきにて、「やたらと四巻エロいエロい言われた」と書かれているとおり、本当にエロいです。
電撃文庫の限界ギリギリなんじゃないでしょうか?

そんなことになった原因は明白で、表紙にデカデカと描かれた少女、ついに登場した女吸血鬼「上弦」です。
布団を敷き詰めた和室というなんとも妖しいロケーションで登場するや、いきなりお耽美な吸血シーンを演じるは、
自身の『眷属』である「玄翁」に「夜伽をしろ」とか言っちゃうわ、もうやりたい放題。
しかし、凄まじく魅力的なキャラクターであることは間違いなく、
さしずめ裏ヒロイン、あるいは真ヒロインと言ってしまってもいいようなポジションの超重要キャラです。

もしくは、レレナを蹴落としての舞との新・ダブルヒロイン結成でしょうか。
……そうなんです。このあたりからレレナは、「ヒロイン?」といったポジションに。
いや、ずっとこれでもかというお姫様ポジションにいて、普通なら間違いなくメインヒロインなのですが、
如何せん『吸血鬼のおしごと』は普通じゃないので、なんとも不遇な感じになっちゃうんですよね。

それというのも、舞と上弦の情念が普通じゃなさすぎるんです。濃すぎです、この人たち。
発売当時は確かまだ浸透していなかったヤンデレって奴です、二人とも。

例えば舞なら、

もしも月島さんが他の誰かに取られそうになったら――

――そいつのこと、殺したくなっちゃうかも
冗談には、聞こえなかった。



あたしにはもう、月島さんしかいないの。

「あたしにとって、月島さんは、」

「全部」



上弦に至っては、倫理観が人間のそれとは違うだけに、さらに過激です。
亮史の愛人と認識したレレナに「泥棒猫め」と憎悪を滾らせ迫ります。
「人のものに手を出しやがって」も何も、自分の方が昔の女であることは完全に棚上げです(笑)。

「自分は玄翁に夜伽とかさせてるのに?」と思われるかもしれませんが、そこがまた。
おそらく上弦の中では、あくまで玄翁とのそれは亮史がいないための代償行為であり、
すなわち亮史を想ってのことだからして浮気などではなくむしろ超一途ワタシ! とかそんな感じなんでしょう。
このあたりの身勝手さがもう、リアルで生々しくって堪りませんね!

この四巻は続く五巻との上下巻構成になっていますが、その内容を一言で表すなら
「黒ストロングのヤンデレ二人に死ぬほど愛されて、
 でもそれはそれとして戦うのが楽しくて仕方ない月島さん」

といったところです。

そんな「あなたが全て」と極まっている舞と上弦に対して、未だ自分の気持ちが、
というか恋愛感情というのがどういったものかさえわからない、というレレナでは、
ちょっと太刀打ち出来るはずもありませんでしたね……。


そんな今回の山場、シリーズを通しても中盤のクライマックスであり、
全編屈指の名シーンといえるのが、亮史と上弦が数百年ぶりに邂逅する場面です。

このシーン、本当に素晴らしいと思います。
会話の内容もさることながら、その最中の二人の描写がまた秀逸で、舐めるように読みました。

真っ直ぐに想いをぶつける上弦と、しかしあくまで冷めた感情で探る亮史。
どこまでも吸血鬼であるがゆえに、だからこそ人間になろうとした亮史と、
人間的であるがゆえに吸血鬼としてのプライドに固執した上弦の対比が見事です。

そして、ここにきて亮史が人間になろうとした理由が明かされます。
その理由こそ、『吸血鬼のおしごと』を特別な作品にしている大きな要素と言えます。
普通なら、人間の弱く短命だけどそれゆえの尊さだとか、吸血鬼にはない感情に憧れてとか。
そういう綺麗で、ヒューマニズム的な理由を設定するところです。

しかし、月島亮史が人間になろうとしたのは、「生き延びるため」。
人間の進歩を目の当たりにしての、ただ合理性だけに基づく判断でした。

……ここまで理性的で、達観していて、そして身も蓋もない主人公、なかなかいませんよ。
そんな主人公を設定して、しっかり物語を書ききった鈴木鈴先生の手腕は非凡なものだと思います。

さらに、

「魎月さま――あの頃に、戻りましょう。ただひっそりと、どこか世の果てで、
 どちらかの不死が尽きるそのときまで、化生の夫婦として生きていきましょう。
 なにもかもを捨てて、ただ、二人きりで、いつまでも、いつまでも――一緒に――」


という情熱的な上弦の求愛に対して、目の前に広がる街並みを示しながら亮史が応えた言葉が、凄まじいです。
二ページを超える長広舌(これまた凄い!)のあと、

――見てみろ、この街を。人間は電気を作り、光を作り、その光をもって次々と闇を削っていった。
今や人間たちにとって、吸血鬼なんてのは忌み恐れるべき化け物でもなんでもない、駆除対象の害獣でしかないんだ


「もうこの世には、化生の住むべき闇なんて、どこにもないんだよ」

初めて見たときは、それはもう震えましたね。

千二百年の時を生きた、最古の、最強の怪物が、自身の劣等と敗北を“淡々と”認め、受け入れているのです。
作品全体を貫くリアリズムとニヒリズムの極致が、ここにあります。

また、この言葉は同時に、「のんべんだらりとした」吸血鬼ものとの、お別れの言葉でもあります。
こんなことを言ってしまっては、もうファンタジック・コメディに戻れるはずもなく。

完全にダークファンタジーと化した四巻。
さらに続く五巻では、そこに「バイオレンスアクション」の要素まで加わることになるのです――。

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ジャンル : アダルト

『吸血鬼のおしごと③ The Style of Specters』感想

吸血鬼のおしごと〈3〉The Style of Specters (電撃文庫)吸血鬼のおしごと〈3〉The Style of Specters (電撃文庫)
(2002/10)
鈴木 鈴

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第三巻となる今回は、いよいよ私の大好きな雪村舞のターンです!
レレナと舞のダブルヒロイン制っぽく始まったこの作品、一巻こそ二人の出番はほぼ同じでしたが、
二巻はレレナ、三巻は舞をそれぞれフューチャーした話であり、かなり一方に偏っています。
三冊併せればちょうどバランスがとれているのですが、
どちらか一人がお気に入りの人にとってはちょっとフラストレーションが溜まる構成かもしれません。
二人とも、自分のメイン回でない巻でもしっかり見所はあるんですけどね。

さて。今回からはすでに、ほのぼのコメディと名乗るのはかなり苦しい感じになっています。
ではどんなジャンルかと言いますと、恋愛ものとするのが妥当でしょう。ただし、ドロドロの。
正確には、恋愛感情を中心に様々な感情が入り乱れる愛憎劇、といったところです。

両親は不仲で互いに浮気をし、父親は別居し、残った母も自分のことを一顧だにしない。
そんな家庭環境で育った舞にとって、レレナの恵まれた家庭は余りにも眩しいものでした。
生まれの差というどうしようもない理不尽、さらには唐突に命まで奪われ幽霊となった我が身。
精神的に追いつめられた舞は、ただひとりの男性である亮史への想いに、救いを求めます。
しかし、とことん噛み合わない歯車にますます追いつめられ、レレナへの嫉妬を募らせて――。

主人公一人にヒロイン二人となれば当然の三角関係が、ついに顕在化します。
(もっとも、舞の勝手な思い込みであって、レレナの方は特に亮史のことを想っているわけではないのですが)
そして、『吸血鬼のおしごと』のおけるそれは、
昨今のハーレムものにありがちな「仲良くケンカしな」では全くありません。

ガチもガチです。
なんとも生々しく、胃が痛くなるようなやりとりが展開され、レレナも舞も、
ヒロインだからといって容赦なく、醜い部分、問題のある部分を赤裸々に描かれています。
特に白眉と言えるのが、それまでギリギリのところで回避されてきた地雷がついに爆発し、
本格的な修羅場となった場面での、下記の舞です。

舞は短く震える息を吐くと、いきなりレレナの頬に強烈な平手打ちを叩きつけた。
「なにしてんの? なにやってんの!? 誰があんたにあたしの気持ちを解説しろって言ったのよ!?
 でしゃばりなのもいい加減にしてよ!! 今あたしと月島さんが話してんでしょ!?
 勝手に入ってくるんじゃねえよ!!」


「ねえよ!!」ですよ、「ねえよ!!」
さらにこのあと、舞はレレナをテーブルへと突き転がし、上体を起したところに腹を蹴り、
髪を掴んで引きずり起した上、顔面にグーパンを入れようとしたところでようやく亮史に止められるという……。

ヒロインを単なる萌え対象とせず、当たり前に汚い部分のある生身の人間として書く。

こういうところが、大好きなんですよね。
もっとも、作者の鈴木鈴先生は普通にこういうヒロインが萌えるのかもしれませんが(笑)。
(多分、当たってるんじゃないかと思います。なんだかシンパシーを感じるので)



そんな三角関係の中心となってしまった月島さん。
女の子たちに取り合いされるのは、ラノベ主人公としての宿命ですが、
ここに来ていよいよその主人公としての「特異さ」「異質さ」が表面化してきます。

恋愛感情に鈍くて、ヒロインをやきもきさせてしまったり話をややこしくするところは普通なのですが、
それは未熟なためではなく、あまりに達観しすぎているためなんですよね。
(まあそもそも吸血鬼なので、そういった感情自体が希薄というのもあるのでしょうが)

真っ直ぐに想いをぶつけられても、全く動じず、毅然としています。
なかなか見なくないですか? 修羅場にあっても動揺しない主人公って。

また達観しているのは恋愛に限らず、およそ全ての物事に対しても同じです。
これは一巻の時点から垣間見える面ですが、敵を殺すことに全く躊躇しませんし、罪悪感もありません。
「生きるために必要ならば他の命を奪うのは生物として当然の権利」とか、ひたすら割り切っています。

「不殺」を掲げたり「命は大事だ!」とか叫びながらドンパチする主人公に
偽善的なものを感じて冷めてしまう方には、自身を持ってオススメできる良主人公ですね>月島さん



ヒロインといえども清濁両面を描いて、けして一辺倒なものにはしない本作。
それはキャラクターに限らず、ストーリーについても言えることです。
いい意味での中途半端さを保っていて、それが独特の味わいを生み出しています。

例えば、舞の母親。娘に全く愛情を注がず、なんとも自分勝手な性格をしていて、
とても気分が悪くなるような人物ですが、どうしようもない悪人ではありません。
殴る蹴るの虐待をしていたわけではなく、ほんの少しだけ居なくなった舞のことを気にかけてもいます。
その気になれば、もっとどうしようもない人物にして、より舞の悲劇のヒロインぶりを高めることも出来たはずです。
しかし、それをしません。

物語における舞の彼女に対する決着も、言ってしまえば中途半端なものになっています。
もっと思い切り救われるような、爽快感のあるものにしようと思えばいくらでも出来るはずです。
でも、そうはしていません。

こういうところが、本当に良いと思うんです。
幾分カタルシスを犠牲にしているので、合わないという人も多いとは思いますが、それでも。

物語における作者とは神ですから、喜劇でも悲劇でも、いくらでも好きなように出来ます。
しかし、安直なやり方ではただ読者を冷めさせるだけです。
その点、本当に絶妙のバランス感覚だと思うんですよね。

テーマ : 小説
ジャンル : アダルト

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