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『吸血鬼のおしごと① The Style of Vampires』感想

※以下、ネタバレ注意です。一巻だけでなく、シリーズ全体に渡って言及したりしています。

吸血鬼のおしごと―The Style of Vampires (電撃文庫)吸血鬼のおしごと―The Style of Vampires (電撃文庫)
(2002/04)
鈴木 鈴

商品詳細を見る

<あらすじ>
湯ヶ先町に住む月島亮史は、夜間バイトで生活費を稼ぐ何の変哲もない青年にして、その正体は吸血鬼。
使い魔の猫・ツキと共に、それなりに平穏な毎日を送っていた。
そこに突然現われた幽霊少女・雪村舞、そしてシスターのレレナ。
居候同然に月島家に住みついてしまった二人の少女は、亮史を数々の騒動に巻きこんでしまう。
さらに正体不明の化け物“蜘蛛”なるモノも現われて…。
第8回電撃ゲーム小説大賞選考委員奨励賞受賞作。
魅力的なキャラクター達が大活躍!期待の新人・鈴木鈴が贈るファンタジック・コメディ。
  ※リンク先よりそのまま引用


さて、記念すべき第一巻です。
……が、この時点ではまだ、ほとんどの人にとって「ごく普通のラノベ」という印象の作品だと思います。
本シリーズが、バラエティとインパクトに溢れる「ラノベ」業界にあってなお、
一際異彩を放つ作品としての本性を剥き出しにするのは、もうしばらく先の話です。

そう。
「ファンタジック・コメディ」と銘打たれた、銘打たれていた、銘打たれてしまっていた本作。

第一作の時点では確かにそうなんですが、ここから、
それはもう凄い方向に突きぬけ、ぶっ飛んでいってしまいます。
ぶっ飛んでいったというか、地面にぶっ刺さって、どこまでもめり込んでいったというか……。

昨日のエントリでは、「もっと評価されるべき」というようなことを書きましたが、
正直、逆にもっと叩かれたり、悪名を轟かせていても仕方ない面があります。
最終的に、例えるなら、
良質なイチャラブものだと思ったら完膚なきまでに寝取られた
みたいな展開ですから。しかも、事前情報一切なしの。

ですが、よくよく見返すと、一巻の時点ですでに、その兆候はありました。
伏線というわけではなく、作品世界に満ちた空気として。
感想を書くにあたり、他の方の感想やレビューを見て回ったところ、
見事にそれを読み取られている方もいました。慧眼、恐れ入ります。

基本はのんべんだらりとしたほのぼのコメディなのですが、
話の山場として設けられたシリアスが、本当にシリアスなんですよね……。
妙に現実的で、突き放したところがあり、そして、
作品世界に横たわる重々しいニヒリズムがすでに見え隠れしています。

「――だから、それで僕にどうしろというのさ。僕はもう人間なんだ。少なくとも表面上は
昔は非道な吸血鬼だけど、人間として生きている、お人好しの好青年――という設定の主人公。
人間になった化物、というよくある綺麗な話、よくある厨二的な魅力ある設定、のようでいて。

「あたし、幽霊だから、生きてるときも幽霊だったから
古今、掃いて捨てるほどいる可哀想なヒロインの、鬱陶しい不幸自慢、には違いないのですが。

どこか冷めていて、どうしようもなく諦観している、「振り切れていない」リアルさがあるんですよね。
このあたりが、ストーリー展開を別にしても「普通のラノベ」ではないところだと思います。
まあ、本作に限らず、同時期に出た作品の多くは、今のステレオタイプほど「ラノベ」らしくはないのですが。
それにしても、かなり特異な部類に入ると言えるでしょう。

一体、どう特異なのか?
以下、主要キャラクター三人についての雑感を通して書いていきます。


○主人公「月島亮史」
一見すると平凡で、冴えないお人好しで、さらに朴念仁。
だけど、実は凄い力があって――という極めてテンプレ的な「ラノベ主人公」のようですが。
これがもう、とんでもない食わせ者です(笑)。
あらゆる創作物を見渡しても、極めて珍しいと思います、こんな主人公。

ラノベの主人公というと、よく揶揄されるような、平凡で冷めているとか自分では言っておいて、
読み手からすると極めて情熱的で、特別で、しかし子供っぽく、未熟でわがままで、幼稚な独善を振り回して。
やたらと女の子にはモテて、常軌を逸した優柔不断さと鈍感さでひたすらイライラさせてくれて――
というのがステレオタイプだと思いますが、月島亮史はほとんど真逆に近いです。

一言で表すと、「大人」なんですよね。とにかく成熟しています。
千二百年も生きている設定の通り、達観していて、経験豊富です。
作中では全編を通して、経験の差で相手を圧倒し続けます。

輪郭だけなら、有名どころでは『るろうに剣心』の剣心に似てはいます。
今は穏やかな好青年だけど、昔は悪で、スイッチ入ると悪だった頃に戻って、という。
しかし、そもそも剣心は「今」の方が本質ですが、月島亮史の場合は「昔」こそ本質です。
そして正に「表面上は」人間になったように、なろうとしているように振舞っているだけなのです。

朴念仁というテンプレは踏襲しているように見えて、実体は違います。
「女の子の気持ちに疎い」わけではなく、人間らしい感情そのものが推測でしかわからないのです。化物だから。
ゆえに、「そういうもの」と経験則で理解した範囲であれば、非常に聡いです。
また、恋愛感情に戸惑ったり恥ずかしがったりということもありません。そもそも、恋愛感情がありません。
本当に、徹底してテンプレを逆張りしたようなキャラクターなのです。

総合して、良主人公だとは思います。少なくとも私は、彼が大好きです。
本作のおもしろさが、月島亮史というキャラクターに大きく起因していることは間違いありません。
「ラノベの主人公はイライラする」という人にとっては、きっと凄く快適な主人公でしょう。
ですが、私はライトノベルを読み始めてすぐに彼に出会ったがために、
そういう一般的なラノベ主人公について、好意的に見れるようになったところがあります。
例えば『シャーマンキング』で言及されていた、大人にはない、子供だけが持つ力、
というものを、この物語を通して、彼は反証によって示してくれるのです。

主人公である彼が「大人」であることで、自然、作品自体も「大人」の落ち着きを湛えています。
全編を貫く、決して良い意味だけではない「成熟」。
それが、本作を「よくあるラノベ」では無くしている大きな特徴と言えるでしょう。


○ヒロイン「雪村舞」
私が『吸血鬼のおしごと』を三冊まとめ買いする決め手となったキャラクターです。
当初こそ、次に述べる「レレナ」とのダブルヒロインという形態でしたが、
最終的には完全無欠、唯一無二のメインヒロイン、といえるでしょう。

そんな彼女ですが、やはり最近のステレオタイプとは随分かけ離れています。
まあ、現在ほどラノベ的なテンプレ、デフォルメが確立されていない時代の作品ですから、
同時期の他作品も多かれ少なかれ今見ればそうなのですが、それにしても生々しいです。
綺麗なところだけでなく、醜い感情も、むしろ醜い感情をこそ、剥き出しに描かれます。

最もわかりやすいところでは、すっかりお約束の「ハーレム」なんて、本作では望むべくもありません。
「修羅場」ります。それはもう修羅場ります。仲良く取り合ったりなんてしません。
強烈な独占欲を迸らせて、あざとい媚びや計算した駆け引きを駆使します。
とても可愛らしいとは思えないレベルのわがまま、辟易するようなヒステリーさえ、赤裸々に表出させるのです。

彼女の持つ、ちょっと勘弁してほしいほどのリアルで生々しい感情もまた、
本作がテンプレ的なラノベと一線を画する大きな特徴と言えるでしょう。


○ヒロイン「レレナ・パプリカ・ツォルドルフ」
そんな雪村舞とは逆に、作中最も「ラノベのヒロインらしい」キャラクターです。
ただ、やはり今ほどテンプレ的、デフォルメの利いた造形ではありません。
「こんなイイ子、現実にいるわけないよ」という点では間違いないですが。
凄く大雑把に言うと、「あまり人気は出ない清純淑やか系正統派ヒロイン」といったところ。
それでも、概要はそうだとしても、作中での描写はかなり生々しく、リアルに書かれています。
普通なら、純真さや優しさに起因するとされる言動も、
「押しに弱いだけ」や「気弱なせい」としっかり言及されたりするのです。

しかし、なんとも不憫なことに、そんな彼女は作中最も不遇な感じです。
作中といいますか、作品におけるキャラクターとしての役割が……。
終始、ストーリーを回すためのアイテム的なポジションでした。
ただ、それも仕方ないといいますか、必然であったように思います。
『吸血鬼のおしごと』という作品において、彼女のようなキャラクターは、そうなるしかないのかな、と。

最もラノベらしいキャラクターである彼女が、そういう役回りになる――
つまり、『吸血鬼のおしごと』は、そういう作品だったということです。



最後に、あとがきでは、この話を思いついたきっかけが明かされています。
無敵の超人として描かれる吸血鬼ですが、「本当にそうか?」と考えてみたと。
日光を浴びてはいけない、血を吸わなければいけないことが、どんなに大変か。
それを、極めて現実的に考えていったところ、出来上がったのがこの作品だと言います。

つまり、「現実的に」突き詰めていく。
可能な限り、ファンタジー的なご都合主義に「逃げない」ことで生まれた作品、というわけです。
そんな出発点から走り出した時点で、『吸血鬼のおしごと』が辿りつく結末は、最初から決まっていたのかもしれません。


――ひたすら現実的に、物語的な救済に逃げなかった果てに、待っていたものは?

と、いったところで次回に続きます。

テーマ : 小説
ジャンル : アダルト

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