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『吸血鬼のおしごと⑦ The Style of Mortals』感想

「今までありがとう。
 舞くんと、君と過ごした生活は――とても、楽しいものだった」


吸血鬼のおしごと〈7〉The Style of Mortals (電撃文庫)吸血鬼のおしごと〈7〉The Style of Mortals (電撃文庫)
(2004/09)
鈴木 鈴

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(※全力でネタバレしまくっております。ご注意を)
先述の通り、六巻の帯の煽り文は衝撃的でしたが、この七巻のそれは、別の意味で衝撃的でした。
だって、

もう、疲れた。人間でいるのも、人間として暮らすのも。

ですよ!?
六巻→七巻の合わせ技で、なんだこのとんでもない落差は、と。
いや、必然ではあるんですけどね。

六巻のラストで、舞の消滅によって生まれて初めて泣いた亮史。
ついにずっと望んでいた人間としての心を手に入れたのですが、初めて覚えたそれは、哀しみと絶望でした。
なので、「こんな温もりなら、いらなかった」と、直後のモノローグで呟いています。
しかし、物語の基本構造から言っても、そこからどう立ち直るかが描かれると思うじゃないですか?

もちろん、とても明るいハッピーエンドになるとまでは思っていませんでした。
切なく、もの悲しい中にも、いくらかの救いはある、そういう終わり方になるだろう、と。

……甘かったですね。
全く予想の斜め上なんだか下なんだかわからない方向に、とにかく突き抜けました。

私にとっては、予想は裏切り期待には応える理想的なもので、
読み終わるとともに深い感動を覚えましたが、とても一般的に受け入れられるものではないことも明らかでした。
「とんでもない投げっぱなし」「ひどすぎる」と仰る方がいることも、そのお気持ちもわかります。
だけど、それでも私は、間違いなく傑作だと思うのです。


舞を失った亮史の胸に宿るものは、ただひとつ。彼女を殺した、真田への復讐です。
そのために、亮史は上弦と共闘することにし、帯の煽り文はそのときの一節です。
亮史に執着する上弦の望みに応えると言い、彼女を懐柔――ぶっちゃけ「コマし」ます。
操縦法を心得ているヤンデレほど扱いやすいものはありません。
そして、客観的に見れば、これほど可愛いものもありません。

この巻の上弦は、本当に健気で一途で、とても可愛いです。メチャクチャ萌えました。
ことあるごとに亮史の歓心を買おうと媚びまくるいじらしさが堪りません。
そんな彼女に対して、亮史は極悪非道のスケコマ師ぶりを発揮します。
まるで貢がせるだけ貢がせ、骨までしゃぶり、ソープに沈めて捨てるような、
しかしそれより遥かにひどい鬼畜行為を行います。
本当にライトノベルの主人公なんでしょうか、この人……(笑)。

少なくとも、万が一にも上弦エンドということはありえません。
殺す、というのはあるだろうと思っていました。

しかしまさか、発狂させるとは……!

それも、そこに至る経緯、発狂の仕方がまたエゲツナイ。
使い魔であるツルを目の前で惨殺し、絶望して死を請う上弦に、お前の命なんて別にどうでもいい、と。
さらに、発狂した上弦は、玄翁を魎月だと認識するように。
それでも敬愛する主人のためならばと、憎い男の代わりを演じ続けることを決意する玄翁……。

私は最高にエキサイトしたんですが、これ、本当に中高生に読ませていいんですかね?
なんだか、未来あるいたいけな少年が変な性癖に目覚めそうなんですけど……(笑)。

この部分、亮史と上弦、両者の心情がかなり詳細に説明されているのですが、それがまた。
上弦の愛情は盲目的で純粋ですが、同時にとても身勝手で、エゴに塗れてもいます。
でも、強烈な愛情には極普通に伴う程度で、そこまで罪深いものとも言えず、真摯な部分もかなりあるんです。

それを亮史は、「自分のことしか考えていない女」と断じています。
そして凶行に及んだ理由は、そんな彼女に「ムカついたから。なんとなく」と。
彼の視点に立つと、確かにそう思われても仕方ない部分、事実そうである部分も多々あるのですが、しかし。
あんまりにも、あんまりですよね。なんという容赦のなさでしょう! もう堪りませんね!
そりゃあ「ドS作家」とか「黒作家」とか言われるってもんですよ(笑)。


さて、いわゆる「ラスボス」に位置する真田ですが、キャラクター的にはむしろ「主人公」しています。
主人公である亮史の方がよっぽどラスボスっぽいです。
途中、「どうすれば月島亮史に勝てるのか?」という答えを求めて試行錯誤し、
「要は覚悟だ、意思の強さだ!」という結論を見つける真田は、とても熱血主人公していました。
また、そんな真田を歯牙にもかけず蹂躙する亮史は、完璧にラスボスでした。

そして、真田を殺し、舞の仇を討った亮史は――自殺します
もうこれ以上、生きる意味を見出せなくなったのです。
最初は生きるために人間になろうとして、人間の心に興味を持ち、それを欲して。
ついに手に入れてみれば、感じたのは悲しみと絶望、残ったのは喪失の虚無感だけ。
人間の心も、それを求めた自身も全否定して、亮史は死を選びます。

「お前のために命を投げ出した舞はどうなるんだよ!?」と言いたくなる展開ですが、
それについても「こんな自分を好きになり、こんな自分のために命を投げ出した彼女がかわいそうだ」と
亮史の心情がきっちり解答されているというのがまた、どこまでも救いが無く……。

生まれて初めて太陽を見ながら、その光に焼かれて溶け消えていく亮史の、

薄く開けたその目に最期に映ったものは、
燦然とした輝きを放ちながら昇りゆく、この上もなく美しい朝日だった。


という最期の美しさが虚無感に拍車をかけます。

ファンタジック・コメディと銘打たれ、のんべんだらりとした吸血鬼を書く、
として始まった作品の結末がこれか、というと超展開のように感じられるかもしれませんが、
しかし、『吸血鬼のおしごと』という作品は、根っこのところで、ずっと「こう」だったと思うのです。

容赦なく現実を直視して、逃げない。
作品を透徹するシビアな人間観・人生観とニヒリズムは終始、揺らぎませんでした。
ゆえに、本作が安易な人間賛歌、ヒューマニズムの全否定に至ったことは、必然であると言えます。

また、確かに衝撃的で、意外すぎる結末ではありましたが、
それはあくまで一般的な物語のお約束から類推した場合であって、ただ純粋にこの作品だけを見れば、
間違いなく「これしかない」という必然の展開だったと思います。

そういえば、現在では『魔法少女まどか☆マギカ』で有名な虚淵玄先生は以前、ハッピーエンドが書けなくなっていたそうです。
人生の最後は常に死であり、つまりバッドエンドであり、ハッピーエンドなんて信じられない、と。

それは、間違いなく一面の事実です。だけど、普通の物語は、(悪い言い方をすれば)そこから逃げます。
人間を肯定し、生きることを肯定し、ハッピーエンドで終わります。その逆は、喜ばれないからです。
救いなんて無いという現実を直視できる人は、そう多くないでしょう。
だから、人間を否定し、生きることを否定したこの作品が不評を受けるのは、
当たり前といえば当たり前すぎることです。

でも私は、どこまでも現実を直視して逃げないことを貫いて
ひとつの作品をきっちりと書ききり、完結させたことは、もっと称賛を受けてしかるべきだと思うのです。
人間の否定、生きることの否定を少年向け作品でやらかした、やってのけたという暴挙にして壮挙という点でも。


「それでも、いくらなんでも雪村舞が報われないのではないか」というのは、私も考えました。
亮史を守るために死んだ彼女のためにも、彼は生きるべきではなかったのか? と。

しかし、むしろ「逆」ではないでしょうか。
雪村舞のためにも、月島亮史は死ぬべきだったのです。

愛する者が、自分のために死んだ時、相手のためにも生きるべきなのは、女性だけだと思うんです。
男は、死ななければなりません。愛しい人が、自分のために死んだなら。
確かに彼女を愛していたことの証明に、死ななければならないと思うのです。
「舞がいない世界で生きていく意味はない」という亮史の、これこそ正に究極の愛ではないでしょうか?

つまり、形こそ望んだものではなくても、雪村舞の想いは、これ以上なく報われているのです。

余談ですが、本作は見方を変えれば「純真な少女の愛、人間の心の温もりが、千年を生きた化け物を滅ぼした」
というステロタイプな物語として要約することも出来、そう考えると完全なハッピーエンドであるのもおもしろいところです。


もっとも、素直に本作の救いを見出すならば、それは生き残ったレレナとクイナでしょう。
(ツキもですが……今まで全く触れてこなかったこともあり、割愛します)

このうち、レレナについては続編『吸血鬼のひめごと』にて後日談が描かれています。
それとは別に、『吸血鬼のおしごと』内での彼女の結末はというと……。
これまた非常に、現実的なんですよね。拍子抜けするほどあっさりと、受け入れているんです。
奇妙な同居生活の終わりも、好ましい同居人たちの死も。
今までの日常の終わりを悟り、新しい日常へと覚束ない足取りで歩き出しています。

初めて読んだ時はその前の亮史の最期が美しすぎたので、
淡々と物語を仕舞った事務的なエピローグ、ぐらいに考えていました。
しかし、今改めて読み返してみると、素晴らしくいいエピローグだと思いました。
自暴自棄から立ち直ったように見えて、やはり投げ槍な雰囲気を纏ったまま去っていくクイナと合わせて。
現実的で、ニヒリズムに貫かれた物語の結末に、これ以上なくふさわしいと思うんです。

テーマ : 小説
ジャンル : アダルト

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