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『吸血鬼のおしごと② The Style of Servants』感想

吸血鬼のおしごと (2) (電撃文庫 (0688))吸血鬼のおしごと (2) (電撃文庫 (0688))
(2002/07)
鈴木 鈴

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『吸血鬼のおしごと』を各巻ごとに評価した場合、
本作を当初のコンセプトである「ファンタジックコメディ」として見るなら、おそらくこの二巻が最高傑作でしょう。
作者・鈴木鈴先生のデビュー作でもあった一巻からの、まさに正当進化系といった感じで、
コメディのおもしろさもストーリーパートのシリアスさも、どちらもよりパワーアップしています。

また、一巻の時点では薄かった「吸血鬼もの」らしさも、格段に上がっています。
それも、『吸血鬼のおしごと』としての個性、コンセプトを、しっかりと保ったままで、です。

不老不死であること。血を吸った相手を吸血鬼にしてしまうこと。
従来の「吸血鬼もの」では、敵役である吸血鬼の恐ろしさ、
絶対の長所として描かれてきた部分にも、本作はやはり「現実的に」、鋭くツッコミを入れていきます。

『永遠の生』という、人の見果てぬ夢に、「でも、それって本当に幸せなの?」と。
「人の心は、永遠に生きることに耐えられるのか。だって、永遠って、永遠だよ?」と、全く容赦しません。
これは作品全体を貫くテーマにもなっていると思いますが、いや本当に、全く容赦ないんです(笑)。


「――永遠は、長い」
「あなたと、一緒なら」


なんてロマンチックなやりとりなのでしょう!
本作のゲストヒロイン「シギ」が、かつて主人公と同じ生まれながらの吸血鬼と心を通わせ、
彼の牙で吸血鬼となって、共に永遠を生きることを約束した時の台詞です。
でも、主人公とヒロインがエピローグでする以外は、それは間違いなく悲劇フラグです!(笑)

案の定、彼女の蜜月は、その最愛の妹であるクイナによって余りにも呆気なく、短く終わります。
今回の敵役であるこのクイナ、客観的に見て、非常に問題のある人物です。
端的に言って、「思い込みが激しく、わがままで自分勝手な倫理観の著しく欠如したヤンデレシスコンDQN」です。
(彼女が好きな方、気を悪くされたらゴメンナサイ。でも、そんな人にも、きっと同意して頂けると思います)

しかしそれでも、シギにとっては可愛い妹。
なんでもかんでも自分のせいだと思い込む性格も手伝い、彼女を憎むこともできません。
埋めようのない喪失感を抱えて、ただ無為に日々を生きています。代わるものを探そうともせず――。

さらに冒頭で、主人公の月島亮史が恋人であった女吸血鬼・上弦について、
「男女である以上別れはやってくる」「永遠の生を持つとなればなおさらだ」と振り返っているのがまた……。
正直、多感な中高生に読ませるのは色々マズイんじゃないかと思うほど、
『吸血鬼のおしごと』という作品の根底には、重々しいニヒリズムが横たわっています。


「レレナ!! 私はあなたのためを思って――」
「離してって言ってるでしょ!!」


二巻の話は、主に二つの軸によって展開します。
ひとつは先述したシギとクイナの姉妹で、シリアスパート担当。
そしてもうひとつが、一巻で半吸血鬼となったために故郷のローマへ帰れなくなったヒロイン・レレナと、
そんな彼女を連れ戻しに来た母・マリ(ともう一人)によって巻き起こされる一連の騒動です。
こちらは概ねハートフルなコメディとして進みますが、引用した台詞のとおり、シリアス成分もあります。

問題なのは、そのシリアスになった経緯です。
お互いを大切に想い合っている母娘ですが、不幸にもすれ違い、大喧嘩をしてしまいます。
それだけならよくある、王道の展開であり、最後は心温まるお話として綺麗に締まるのが常です。
『吸血鬼のおしごと』においても、一見するとやはりそうなっているのですが――違うんですよね、ちょっと。

普通なら、どちらも綺麗に、ただすれ違っただけとして描かれるところが、そうではなく。
微妙な汚さ、醜さを滲ませていて、非常に生々しいんですよね。
この「お互いを想い合っているのにすれ違い」というのはシギとクイナの姉妹にも共通することで、
こちらはより顕著なのですが、はっきり言って「エゴい」んです。

相手を大切に想っているのは確かですが、その想い方に、どうしようもなくエゴがあるんです。
「相手のため」と言いながら、その実「自分のため」であったり、
本当に「相手のため」になるかどうかを自己完結して、大切だという相手と確かめ合うことをしない。
クイナが最も顕著ですが、マリも仕方ない面が多々あるとはいえ、やはり自分勝手なのは否めません。
シギにしても、一人で勝手に背負い込んで、自己犠牲・献身という心地良い名目に漬かり、諦めへ逃げています。
レレナでさえ、流石にちょっと浅慮・無神経が過ぎる言動をして、方々に迷惑をかけています。
特にもう一人のヒロイン、舞に対する諸々は、年齢と状況を鑑みても擁護できないレベルです(笑)。

こういった、たとえヒロインであっても綺麗なばかりには書かないところが、堪らなく好きです。
そして、キャラクターの魅力で押すことが重視される最近のライトノベルでは、もう中々見られないことなのかな、とも。
汚い面を持たせる場合にも、逆にヤンデレですとか、一方向に極まることで昇華させたり、
「ギャップ萌え」として設定されるようになって、清濁併せ持ったキャラクターというのは、もう難しいのかもしれません。
そもそも、一般小説やその他の創作物を見ても稀ではあるのですけれど。



さて、『吸血鬼のおしごと』シリーズ全体の特徴として「分厚い」というのがあります。

単純に、ページ数のことです。
レーベルの平均に比して、かなりページ数が多いんですよね。(常識的な範囲ですが)
中でもこの二巻は厚い方で、380Pほどもあります。

また、心理描写が非常に丁寧で、多いという特徴もあります。直接的な描写に限らず、
心情を表すような仕草の描写もとても細かく書き込まれているので、ページ数が増えるのはそのためでしょう。

なので、ストーリーを箇条書きにすると、ページ数に比してかなり短くまとまります。
そのせいで、「内容が薄い」という評価を受けることもあるようですが、それは違うと主張したいです。
ストーリーがシンプルなだけで、「内容」はむしろ濃密だと思うのです。

かつて芥川龍之介先生は「筋らしい筋らしいがない小説こそ、本当の小説」と仰いました。
そういった点で、作品内で起きる事象よりもそれに伴う登場人物の心情に比重を置いている感のある『吸血鬼のおしごと』は、
一般小説に近いどころか、多分に純文学的なところがある、と思ったりもしています。


そして、あとがきにて作者御自身でも言及されていることですが、
今回の締め方などはもはや完全にハードボイルドの趣であり、早くも本性が覗きつつあります。
「のんべんだらりとした吸血鬼を書く」から「のんべんだらりとした吸血鬼を書く。他」に
コンセプトを変更する、と冗談めかして書かれていますが、完結した今見返すと……(笑)。

明確に路線変更したのは四巻からで、三巻はまだ初期の路線の延長上にあるとは言えますが、かなり陰鬱です。
比重が極端にシリアスに傾き、四巻への助走に見えないこともありません。
そうなると一巻で銘打たれた「ファンタジック・コメディ」であったのは、実質この二巻までということになります。

全七巻中、二巻――三割いってないというのは、流石に驚愕です(笑)。
ここまで読んでおもしろかった、好きだという方にはこの先は「地雷」かもしれませんが、
でも間違いなく良い作品だと思うので、ぜひとも全巻読んで欲しいですね。

その結果、「著しく鬱になった……」「精神をコンクリートで摩り下ろされたorz」
という方がいても、苦情は受け付けませんが! 自己責任でお願いします(笑)。

テーマ : 小説
ジャンル : アダルト

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