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『吸血鬼のおしごと③ The Style of Specters』感想

吸血鬼のおしごと〈3〉The Style of Specters (電撃文庫)吸血鬼のおしごと〈3〉The Style of Specters (電撃文庫)
(2002/10)
鈴木 鈴

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第三巻となる今回は、いよいよ私の大好きな雪村舞のターンです!
レレナと舞のダブルヒロイン制っぽく始まったこの作品、一巻こそ二人の出番はほぼ同じでしたが、
二巻はレレナ、三巻は舞をそれぞれフューチャーした話であり、かなり一方に偏っています。
三冊併せればちょうどバランスがとれているのですが、
どちらか一人がお気に入りの人にとってはちょっとフラストレーションが溜まる構成かもしれません。
二人とも、自分のメイン回でない巻でもしっかり見所はあるんですけどね。

さて。今回からはすでに、ほのぼのコメディと名乗るのはかなり苦しい感じになっています。
ではどんなジャンルかと言いますと、恋愛ものとするのが妥当でしょう。ただし、ドロドロの。
正確には、恋愛感情を中心に様々な感情が入り乱れる愛憎劇、といったところです。

両親は不仲で互いに浮気をし、父親は別居し、残った母も自分のことを一顧だにしない。
そんな家庭環境で育った舞にとって、レレナの恵まれた家庭は余りにも眩しいものでした。
生まれの差というどうしようもない理不尽、さらには唐突に命まで奪われ幽霊となった我が身。
精神的に追いつめられた舞は、ただひとりの男性である亮史への想いに、救いを求めます。
しかし、とことん噛み合わない歯車にますます追いつめられ、レレナへの嫉妬を募らせて――。

主人公一人にヒロイン二人となれば当然の三角関係が、ついに顕在化します。
(もっとも、舞の勝手な思い込みであって、レレナの方は特に亮史のことを想っているわけではないのですが)
そして、『吸血鬼のおしごと』のおけるそれは、
昨今のハーレムものにありがちな「仲良くケンカしな」では全くありません。

ガチもガチです。
なんとも生々しく、胃が痛くなるようなやりとりが展開され、レレナも舞も、
ヒロインだからといって容赦なく、醜い部分、問題のある部分を赤裸々に描かれています。
特に白眉と言えるのが、それまでギリギリのところで回避されてきた地雷がついに爆発し、
本格的な修羅場となった場面での、下記の舞です。

舞は短く震える息を吐くと、いきなりレレナの頬に強烈な平手打ちを叩きつけた。
「なにしてんの? なにやってんの!? 誰があんたにあたしの気持ちを解説しろって言ったのよ!?
 でしゃばりなのもいい加減にしてよ!! 今あたしと月島さんが話してんでしょ!?
 勝手に入ってくるんじゃねえよ!!」


「ねえよ!!」ですよ、「ねえよ!!」
さらにこのあと、舞はレレナをテーブルへと突き転がし、上体を起したところに腹を蹴り、
髪を掴んで引きずり起した上、顔面にグーパンを入れようとしたところでようやく亮史に止められるという……。

ヒロインを単なる萌え対象とせず、当たり前に汚い部分のある生身の人間として書く。

こういうところが、大好きなんですよね。
もっとも、作者の鈴木鈴先生は普通にこういうヒロインが萌えるのかもしれませんが(笑)。
(多分、当たってるんじゃないかと思います。なんだかシンパシーを感じるので)



そんな三角関係の中心となってしまった月島さん。
女の子たちに取り合いされるのは、ラノベ主人公としての宿命ですが、
ここに来ていよいよその主人公としての「特異さ」「異質さ」が表面化してきます。

恋愛感情に鈍くて、ヒロインをやきもきさせてしまったり話をややこしくするところは普通なのですが、
それは未熟なためではなく、あまりに達観しすぎているためなんですよね。
(まあそもそも吸血鬼なので、そういった感情自体が希薄というのもあるのでしょうが)

真っ直ぐに想いをぶつけられても、全く動じず、毅然としています。
なかなか見なくないですか? 修羅場にあっても動揺しない主人公って。

また達観しているのは恋愛に限らず、およそ全ての物事に対しても同じです。
これは一巻の時点から垣間見える面ですが、敵を殺すことに全く躊躇しませんし、罪悪感もありません。
「生きるために必要ならば他の命を奪うのは生物として当然の権利」とか、ひたすら割り切っています。

「不殺」を掲げたり「命は大事だ!」とか叫びながらドンパチする主人公に
偽善的なものを感じて冷めてしまう方には、自身を持ってオススメできる良主人公ですね>月島さん



ヒロインといえども清濁両面を描いて、けして一辺倒なものにはしない本作。
それはキャラクターに限らず、ストーリーについても言えることです。
いい意味での中途半端さを保っていて、それが独特の味わいを生み出しています。

例えば、舞の母親。娘に全く愛情を注がず、なんとも自分勝手な性格をしていて、
とても気分が悪くなるような人物ですが、どうしようもない悪人ではありません。
殴る蹴るの虐待をしていたわけではなく、ほんの少しだけ居なくなった舞のことを気にかけてもいます。
その気になれば、もっとどうしようもない人物にして、より舞の悲劇のヒロインぶりを高めることも出来たはずです。
しかし、それをしません。

物語における舞の彼女に対する決着も、言ってしまえば中途半端なものになっています。
もっと思い切り救われるような、爽快感のあるものにしようと思えばいくらでも出来るはずです。
でも、そうはしていません。

こういうところが、本当に良いと思うんです。
幾分カタルシスを犠牲にしているので、合わないという人も多いとは思いますが、それでも。

物語における作者とは神ですから、喜劇でも悲劇でも、いくらでも好きなように出来ます。
しかし、安直なやり方ではただ読者を冷めさせるだけです。
その点、本当に絶妙のバランス感覚だと思うんですよね。

テーマ : 小説
ジャンル : アダルト

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