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『吸血鬼のおしごと④ The Style of Mistress』感想

吸血鬼のおしごと〈4〉The Style of Mistress (電撃文庫)吸血鬼のおしごと〈4〉The Style of Mistress (電撃文庫)
(2003/02)
鈴木 鈴

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全七巻のちょうど真ん中にあたるこの巻で、シリーズはついに転換点を迎えます。
ファンタジック・コメディという皮を脱ぎ捨て、いよいよダークファンタジーとしての本性を剥き出しにするのです。
同時に、より「吸血鬼ものらしい」吸血鬼ものとなっていきます。
すなわち、「吸血鬼もの」の醍醐味といえる耽美さを帯びてくるのです――

というかぶっちゃけ、やたらとエロくなっています(笑)。

次の五巻のあとがきにて、「やたらと四巻エロいエロい言われた」と書かれているとおり、本当にエロいです。
電撃文庫の限界ギリギリなんじゃないでしょうか?

そんなことになった原因は明白で、表紙にデカデカと描かれた少女、ついに登場した女吸血鬼「上弦」です。
布団を敷き詰めた和室というなんとも妖しいロケーションで登場するや、いきなりお耽美な吸血シーンを演じるは、
自身の『眷属』である「玄翁」に「夜伽をしろ」とか言っちゃうわ、もうやりたい放題。
しかし、凄まじく魅力的なキャラクターであることは間違いなく、
さしずめ裏ヒロイン、あるいは真ヒロインと言ってしまってもいいようなポジションの超重要キャラです。

もしくは、レレナを蹴落としての舞との新・ダブルヒロイン結成でしょうか。
……そうなんです。このあたりからレレナは、「ヒロイン?」といったポジションに。
いや、ずっとこれでもかというお姫様ポジションにいて、普通なら間違いなくメインヒロインなのですが、
如何せん『吸血鬼のおしごと』は普通じゃないので、なんとも不遇な感じになっちゃうんですよね。

それというのも、舞と上弦の情念が普通じゃなさすぎるんです。濃すぎです、この人たち。
発売当時は確かまだ浸透していなかったヤンデレって奴です、二人とも。

例えば舞なら、

もしも月島さんが他の誰かに取られそうになったら――

――そいつのこと、殺したくなっちゃうかも
冗談には、聞こえなかった。



あたしにはもう、月島さんしかいないの。

「あたしにとって、月島さんは、」

「全部」



上弦に至っては、倫理観が人間のそれとは違うだけに、さらに過激です。
亮史の愛人と認識したレレナに「泥棒猫め」と憎悪を滾らせ迫ります。
「人のものに手を出しやがって」も何も、自分の方が昔の女であることは完全に棚上げです(笑)。

「自分は玄翁に夜伽とかさせてるのに?」と思われるかもしれませんが、そこがまた。
おそらく上弦の中では、あくまで玄翁とのそれは亮史がいないための代償行為であり、
すなわち亮史を想ってのことだからして浮気などではなくむしろ超一途ワタシ! とかそんな感じなんでしょう。
このあたりの身勝手さがもう、リアルで生々しくって堪りませんね!

この四巻は続く五巻との上下巻構成になっていますが、その内容を一言で表すなら
「黒ストロングのヤンデレ二人に死ぬほど愛されて、
 でもそれはそれとして戦うのが楽しくて仕方ない月島さん」

といったところです。

そんな「あなたが全て」と極まっている舞と上弦に対して、未だ自分の気持ちが、
というか恋愛感情というのがどういったものかさえわからない、というレレナでは、
ちょっと太刀打ち出来るはずもありませんでしたね……。


そんな今回の山場、シリーズを通しても中盤のクライマックスであり、
全編屈指の名シーンといえるのが、亮史と上弦が数百年ぶりに邂逅する場面です。

このシーン、本当に素晴らしいと思います。
会話の内容もさることながら、その最中の二人の描写がまた秀逸で、舐めるように読みました。

真っ直ぐに想いをぶつける上弦と、しかしあくまで冷めた感情で探る亮史。
どこまでも吸血鬼であるがゆえに、だからこそ人間になろうとした亮史と、
人間的であるがゆえに吸血鬼としてのプライドに固執した上弦の対比が見事です。

そして、ここにきて亮史が人間になろうとした理由が明かされます。
その理由こそ、『吸血鬼のおしごと』を特別な作品にしている大きな要素と言えます。
普通なら、人間の弱く短命だけどそれゆえの尊さだとか、吸血鬼にはない感情に憧れてとか。
そういう綺麗で、ヒューマニズム的な理由を設定するところです。

しかし、月島亮史が人間になろうとしたのは、「生き延びるため」。
人間の進歩を目の当たりにしての、ただ合理性だけに基づく判断でした。

……ここまで理性的で、達観していて、そして身も蓋もない主人公、なかなかいませんよ。
そんな主人公を設定して、しっかり物語を書ききった鈴木鈴先生の手腕は非凡なものだと思います。

さらに、

「魎月さま――あの頃に、戻りましょう。ただひっそりと、どこか世の果てで、
 どちらかの不死が尽きるそのときまで、化生の夫婦として生きていきましょう。
 なにもかもを捨てて、ただ、二人きりで、いつまでも、いつまでも――一緒に――」


という情熱的な上弦の求愛に対して、目の前に広がる街並みを示しながら亮史が応えた言葉が、凄まじいです。
二ページを超える長広舌(これまた凄い!)のあと、

――見てみろ、この街を。人間は電気を作り、光を作り、その光をもって次々と闇を削っていった。
今や人間たちにとって、吸血鬼なんてのは忌み恐れるべき化け物でもなんでもない、駆除対象の害獣でしかないんだ


「もうこの世には、化生の住むべき闇なんて、どこにもないんだよ」

初めて見たときは、それはもう震えましたね。

千二百年の時を生きた、最古の、最強の怪物が、自身の劣等と敗北を“淡々と”認め、受け入れているのです。
作品全体を貫くリアリズムとニヒリズムの極致が、ここにあります。

また、この言葉は同時に、「のんべんだらりとした」吸血鬼ものとの、お別れの言葉でもあります。
こんなことを言ってしまっては、もうファンタジック・コメディに戻れるはずもなく。

完全にダークファンタジーと化した四巻。
さらに続く五巻では、そこに「バイオレンスアクション」の要素まで加わることになるのです――。

テーマ : 小説
ジャンル : アダルト

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